展覧会の順路で言うと、1番最後の展示エリアだった。出口に面しているのでアルミホイルで遊ぶ広場のような風景に導かれて出口側から入ってくる来場者もちらほらいた。アルミホイルを被り、そのまま機嫌よく別の展示室に行き、“キラキラと目立つ大きな被り物”が展示物に触れないよう注意された人もいたようだ。
「ミッチーを待ちながら」は展示室を会場としたパフォーマンスだった。
来場者を迎えるメインのパフォーマーは4人。「門番」「絵描き」「額装屋」と「建築家」。それぞれを岩田直樹、富塚絵美、大西健太郎、夫学柱がつとめた。
入り口で「ダ〜メダ〜メ〜♪」と音を鳴らすモヒカン姿の常識的にはある意味ダメそうな人。この人は「ダメかどうか」を判断し、ダメなら入場許可をする役割の門番だ。
この回は、TURNフェスの初回だったので、来場者側もどのように振舞ったらいいのかわからない人も多かった。通過する一人ひとりに反応する人がいることは、とても重要だったように思う。
そこを通過した人々はアルミホイルのエリアに入る。そのエリアには、「絵描き」と「額装屋」とアルミホイルで家を作る「建築家」がいる。
「絵描き」は気ままに来場者の中からモデルを見つけてはアルミホイルで自分好みに飾り付け、絵を描く。その絵はモデルにプレゼントする。絵描きのそばに置いてある引き出しの上には、「招待状」が山積みになっている。彼女は誰かを招待し、待っているのだ。
その隣には丁寧な仕草で作業する「額装屋」。彼に作品を渡すとアルミホイルで飾り付けて額装してくれる。希望すればモビールのような不安定で魅力的な場所にくくりつけて展示してくれる。
その奥にはひたすら作業を続ける「建築家」がいる。アルミホイルだけで自立して、人が入れる空間を試行錯誤しながら作り続けている。
上記のほかには、「常連」の4人。その場のスナップ写真を撮る渡辺梨恵子、ノートにその場で起きた出来事を記録する前田菜々美、森本菜穂、アルミホイルでの遊びに誘う林まりえなどが来場者に紛れるようなかたちでさりげなく存在していた。
ビーズクッションが置かれ、くつろいで何かが起きるのを「待つ」ことができる場所だった。ここで私が待っていたのは、特定非営利活動法人P・F・P・Cはたらきばで出会った「はたらきバンド」のメンバーや個人的に会いたい知人・友人(もう会えなくなった故人の「みっちー」含む)、そしていつか会いたいけれどはっきりと言葉にできないでいる“未知”との出会いだった。
沢山使用したアルミホイルは、微弱な力でも変形するので、身体に力が入らない人でも、幼児でも、扱うことができ、且つぶつかっても倒れても大きな負荷がかからないので、見た目のインパクトとは裏腹に安全な素材だ。誰かがぶつかっても先に崩れてくれる。とはいえ金属なので、根気よく固めていけば大きな構造物を作る支柱にもなる。崩れやすいから残しづらいのだが、だからこそ気楽に「創ること」へと人々を導いてくれる。
アルミホイルを身につけた人々の振る舞いは伸びやかになり、その場の風景を魅力的にする。演劇のようにずっと眺めていても味わい深く、通過するだけでも何かの気配を目撃できる、そんな場所にしたかった。
私は「絵描き」を担当したが、訪れた人をアルミホイルで飾ることで、その人は本人以上の大きさ・華やかさになり、それによって心が伸び縮みする。いつもとは違う自分の見た目に混乱する身体は絵のモチーフとして最高だった。アルミホイルを纏っただけなのに、びっくりするほど沢山の誇らしい・美しい姿に出会えた。人に奇妙な仕方で働きかけ、その人を堂々とさせ、その身体を眺めることが私の一番の歓びなんだと思う。
美術館の展示室を路上のように開かれた複雑さを帯びるようにしたかったので、フェス会場の出口に隣接するエリアを与えてもらえたことは感謝している。予定外の人々(展示を見に来たわけではない人や、道に迷いやすい人や順路に沿って鑑賞することが苦手な人々など)にも開かれた場所だったことは、この風景をより一層のびやかに豊かにしていた。