活動日誌

ザ・東京ヴァガボンド x レッツ 第1日目

2017.8.3

テンギョウ・クラ

交流先│

  • 認定特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ

僕がレッツに到着した午後3時ごろ、レッツではその日の活動時間がそろそろ終わろうとしていたが、それでも多くの利用者たちが未だ各々の楽しみを積極的に味わっている幸福感に包まれているようだった。
自分が書きとめた文字を一つずつ採点してもらって最後に花マルをもらうと満足そうに拍手をして席に戻る子。
機嫌が良いと童謡やアニメの歌を歌いながら笑顔で浮遊するように歩き回る子。
と思えば部屋の奥の方で一人誰に言うでもなく「〜は来ないの?!」「これは〜なの?!」と太く響く声でずっと叫び続けている子。
大きなぬいぐるみを抱えてマカダミアナッツのような丸っこい目をクリクリさせて周りの出来事に気を配っている子。
たくさんの魅力的な瞬間が同時多発的に起きているレッツ一階のロビー兼リビングルームで僕が圧倒されていると、人懐っこそうな笑顔を浮かべたダウン症の女の子が近づいてきて、「ね、名前は何て言うの?」と訪ねてきた。
「テンギョウだよ」と僕が返すと彼女は面白そうに笑いながら「じゃ、あなたのあだ名はキンギョだね」と言ってくれた。
僕はパーマでうねった髪の毛をゴムひもで結いていたから端っこのもじゃもじゃしたチョンマゲ部分が金魚の尻尾のようだったのもあって彼女は名前の響きと共に僕をキンギョと名付けた。
「それに」と彼女は続けた。
「夏らしいあだ名でしょ」
そう言ってまた人懐っこい笑顔を浮かべた。
彼女の声はとても愛らしかった。
「ほんとだね、ありがとう」そう言って僕は一ミリくらいレッツの仲間入りをさせてもらえたような気がして早速嬉しくなったんだ。
二階の広間にはドラムセットが2台と、オルガンが数台、そしてドラやジャンベのような打楽器が所狭しと並んでいた。
その部屋の隅っこでトランス状態になったようにカセットデッキから流れる大音量の不思議な風景音にずっと耳を傾けている人がいた。
突然やって来た僕を怪訝そうに見上げて、また目線を虚空に押しやる。
彼の佇まいはこの世界の住人は今この瞬間自分とこの音だけなんだから、と言わんばかりだった。
その傍らには、白い半袖のツナギを着た小柄な青年がくねくねと体を揺らしながらタッパで頭をコンコンと叩きながら歩き回っていた。
不思議な青年と音の世界に没頭する男性の作り出すある種の緊張感と開放感のせめぎ合いが、この部屋の空気を独特のものにしていた。
三階では壁と床が落書きで埋まっていて、子供の王国のような雰囲気があった。
部屋の奥にある破れかけのソファには二人の女の子が座ってテレビを観ていた。
反対側にある部屋には布で作ったハンモックや結界のような空間があり、男の子二人が遊んでいた。
賑やかな一階、爆音の二階と比べ、三階はまた違う熱を持ったノイズがあった。
内部がむき出しになったアップライトピアノは、ここで過ごした子どもたちのエネルギーに耐えかねて今にもノックアウト寸前のボクサーのようで、愛しく哀れな存在として西日の差す部屋の片隅で必死の息を繋いでいる。
もしかしたらこの時僕が一番シンパシーを感じられたのがこのピアノだったかもしれない。
レッツの利用者はともかくも元気で明るかったから。
午後5時、誰もいなくなった部屋を回りながら僕は利用者たちが残していった一日の残照を部屋の物たちから感じ取っていた。
僕も破れて穴が空いたドラムのように、レッツで皆んなのパワーにノックアウトされるのかな。