活動日誌

ザ・東京ヴァガボンド x レッツ 第3日目

2017.8.5

テンギョウ・クラ

交流先│

  • 認定特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ

今日はレッツの本拠地アルス・ノヴァ(レッツの利用者の皆さんが日々訪れ過ごす場所)の三階でひとつの出会いがあった。
彼はほとんど口をきかないが、初めからこちらの目をしっかり覗き込んできた。
その強い眼差しの中に、色々な感情が渦巻いているのを垣間見た。
好奇心、警戒心、愛情、不安。。
アルス・ノヴァに来る人たちの中にはよく喋る人もいればほとんど声を発しない人もいる。
目線を合わせようとしない人もいるし、積極的に顔を近づけてくる人もいる。
人それぞれコミュニケーションの取り方が違うのは障害があるなしに関わらず当たり前のことで、アルス・ノヴァでもスタッフの皆さんは利用者の皆さんの障害のケースに合わせて、というよりもまず個人としてこの人は何が好きで何が嫌いでどうしたら喜んでどうしたら怒るかというのを読み取ろうと日々積極的に関係を築いている。
僕にはまだまだ心の間合いの取り方が分からず、初対面の時は傍観者としてそこにいることがあるのだけど、その三階にいた男の子はいきなりググッと距離を縮めてきた。
彼は最初、僕の指輪やカメラをくれないかとジェスチャーで言ってきたが、その時口に人差し指を当て「誰にも言わないで」というような仕草をしたので面白いなと思った。
どこか自分でも悪いという意識がありながら自分の欲求に身を任せてしまうなんて悩める青年らしい。
フラストレーションのはけ口か、自傷行為で傷だらけになった腕につい目が行く。
ソファに腰掛けた彼は隣をポンポンと叩いて僕にも座れと言ってきた。
性懲りも無くまた僕が持っている物をくれないかとねだってくる。
「内緒で」と口に指を当てるのが可愛げがあってつい笑ってしまう。
それから床に落ちていた電化製品や車のチラシをずっと見入っていた。
物に興味があるのかなと思っていたら、一つの車を見つけて僕にこれだこれだというような仕草をした。
そして両手の指先を合わせて屋根のような形を作って見せた。
最初はピンとこなかったがやがてそれが「家」を指す手話だと気付いた。
「なるほど、君の家にはこの車があるんだね」と言うと「そうそう!」と言うように嬉しそうに頷いた。
その時だった。
別の利用者が僕に彼の反対側から話しかけてきたので、思わずそちらを向いてその彼に返事をした。
瞬間、右目にとてつもない圧力がかかった。
さっきの子が僕の目に指を突っ込んできたのだ。
いきなりの事で何が何だか分からずビックリするやら頭に来るやらで混乱したが、彼の目を見て何かしらの感情のほとばしりを感じ、まず自分を落ち着かせた。
きっと単純に自分へのアテンションが欲しかったんだと思う。
注目されたい、無視して欲しくない、その欲求がむき出しになる利用者は少なくない気がする。
皆んな必死で「自分はここにいる!」「自分を見て、聞いて、かまって!」と訴えているのだ。
そんな彼らを見て僕は「幼い」の一言で片付けられるわけがない。
巷を見渡せば自分を承認してもらいたくて爆発寸前の大人たちでいっぱいじゃないか。
アルス・ノヴァの利用者の皆さんはその欲求を全力でスタッフさんたちにぶつける。
スタッフの皆さんは時に予想の斜め上を行くようなトリッキーさで利用者さんたちに応えることもある。
そのクリエイティビティがこの場所には溢れているのだ。
ちなみに僕が何かのアレルギーになって朝から鼻水をダラダラと垂れ流している様を見て、とても心配そうに背中をさすってくれたのも目に指を入れてきた男の子だ。
この生の感情のほとばしりがなんとも熱くて僕の心はヒリヒリする。
夜、レッツの夏恒例、混沌の宴「サマーフェスティバル」が開催された。
一階では皆んなで持ち寄ったフードを囲みながらの交流会、二階では爆単と呼ばれる爆音ライブとポエムが、屋上では佐鳴湖で行われている打ち上げ花火大会の鑑賞が行われた。
いつもアルス・ノヴァにいて感じるのは、居心地の良さだ。
僕は利用者の皆さんがひたむきに自分のやりたいことに打ち込んでいる姿を見てすっかりリラックスしている。
僕自身は自意識過剰で悩んでいるのだが、ここではそんなことを気にしていることがバカらしく思えるほど皆んな楽しそうなのだ。
花火大会がひと息ついて二階に降りてくると、爆単がヤマを越えてもはやトランス状態と化していた。
利用者さんたちもスタッフさんたちも取り憑かれたように楽器を絶叫させていた。
その時「ギターとかドラムとかピアノとか、楽器やれたらかっこいいのにな、モテるかもしれないのにな、でも弾けないから恥ずかしい…」なんていつもウジウジしていた自分がついに吹っ飛んだ。
「僕もやりたい!ギター弾かせてくれ!」
思わずそう言ってギターを握っていた。
グィーンと掻き鳴らす。
音階もリズムも関係ない。
ただひたすらそこにある魂の高ぶりを指先とストリングスの摩擦熱に変えていく。
アルス・ノヴァのスタッフさんや利用者さんと共に、わけも分からず音を出す。
目の前では重度の知的障害の青年が体をくねらせて踊るように歩き回っている。
アァ、僕が求めいている解放はここにもあったのか!
僕は常々思っている。
旅は物理的な移動距離で語られるものじゃない。
心の、魂の揺れ幅で語られるものなんだ。
僕はこの夜、世界の果てに行くより深い旅をした。