1日目
搬入中は殺風景だった会場がオープンすると一気にゴチャっとした。
隣ではシューレ大学の若者たちが目を輝かせながらミーティングをしており、反対側ではドラァグクイーンがダンスを踊っている。
僕はといえば、卓球の球を拾いながら、アルゼンチンから来た記者にひきこもりの話をしている。
アリスの広場からは施設長佐藤さん、ボランティア、ママさん軍団。
スカスカだった空間が人で充満している。こんなに作品を持って来なくてもよかったではないか、と思った。
2日目
兼ねてからの用事があり、この日は休みをもらった。
アリスの施設長佐藤さんが1日中会場にいてくれて、Yさんも群馬から足を運んでくれた。
佐藤さんはもう一泊すれば良かったと言っていた。
自分がいなくても、アリスの広場が生き生きとTURNの会場にいる様子を聞けて嬉しくなった。
そういうのが目標かもしれない。
3日目
「目」というアーティストグループの荒神さんは、3日間アイマスクと耳栓をして会場で記録係をしていた。
彼女は展示を一切見ていないし聞いていない、そして内容について聞かされることもないという。
3日目、僕の展示室の知覚ラインに置いてあった卓球のラケットに気づき、
近くに必ず卓球台があるはずだと初めて手すりを離れ、手探りで歩き出した。
彼女が認識できたのは卓球台と、暗闇に向かって打つ球だけだったと思うが、
しばらくやっていると打ち返す手が徐々に球に近づいていった。
その日の懇親会で彼女から、あの瞬間羽ばきがあったと聞いた。
(もちろん僕は知らないふりをして話を聞いている)
その話を聞いたら、3日間で初めて知覚ラインから離れたその動きは、雛が世界へ飛び出すようにも見えてきた。
その時の光景を鮮明に覚えているので、写真に撮ったのだろうと思っていたが、写真はなかった。