活動日誌

待つ

2018.1.10

大西健太郎アーティスト

交流先│

  • 板橋区立小茂根福祉園

活動後の振り返りの中で職員の片桐さんとお話しする中で、TURNの時間に発見する利用者さんの変化について興味深い話ができた。
小茂根福祉園では、それぞれの利用者さんの障害特性に合わせて、職員が利用者さん個々に合った適合性を検証することで、作業や仕事をわりあて実践している。例えば、集団の流れにのることが苦手、あるいは集団で動くタイミングを掴むことに奥手になる傾向のある利用者さんは、職員がきっかけをつくり、集団の方角へ橋渡しするように促しているという。

「では、TURNではどうだろう?」この問いが面白かった。集団で活動をしてはいるが、それぞれの出方や振る舞いの一挙手一投足が、活動の空気を編み上げている側面は大きい。むしろ、それらが醸し出すリズムの不均衡さが場の振動となって伝わってくる。一方で、なかなか進行が進まないで、ある一人に対して説明などのアプローチが偏り過ぎれば、場も硬直しはじめる。場の空気自体が、呼吸をする生物であるかのように接する必要がある。では、どうしたらよいか。当然、これは課題解決を目的とする「問題」ではないし、そこに目指すべき「答え」があるものではない。

活動に入る前から、片桐さんの中で気になっていた利用者さんがいたという。普段の様子を思い出すと、奥手になりやすい傾向があるため、自分からアクションを起こすことができないのでは。ゲームのルールを理解することが苦手な側面があるため、おいてけぼりになりストレスを溜めてしまうのでは。たくさんの葛藤があったことを打ち明けてくれた。しかし、実際に活動での様子を言葉にしながら意見交換する中で、いくつかの可能性に気がついた。それは、片桐さんにとっても新鮮な出来事だったという。
例えば、表情にはやや戸惑いや躊躇を滲ませながら、でも身体は退かなかった。かなり長く動かない間があり、周囲も困惑しはじめ、助け舟を出そうか迷いつつ、でもぐっとこらえて見守っていたら、次の間で人差し指がゆっくり動き、思わず周りも「おー!」と響めいた。などなど、かなり些細な出来事ではあるが、一筋の光のような記憶が強烈に記憶に残っていることを実感した。

「待ちましょう。」と話した。待つことで、出来事を見守る周囲がもう一度呼吸をし直し、再度目の前の出来事を新鮮に見つめる眼差しが生まれるのではないだろうか。

© Arts Council Tokyo