活動日誌

TURN

2018.7.11

小野龍一アーティスト

こっちに来てから二週間ちょっとして、さっそく一悶着あった。非常に興味深い出来事だったので綴っておきたいと思う。
次の週からワークショップが始まるため、その準備を朝からしようと、アトリエであるCasa de las Bandas(カーサ・デ・ラ・バンダス)へ行った時だった。入り口を入ってすぐに、警備員が同行していた現地の友人ガブリエルに話しかけた。話が終わり、気まずそうな表情で彼が言った。

「君はピアノを使うことができない」

その理由もはっきりせず、納得のいかなかった僕は、彼に上層部の人間に交渉してくれるよう頼んだ。施設のディレクターであるロドリゴに話をすると、彼はすぐに涼しい顔で”No problem”(ノープロブレム)。唖然とするよりも安堵の気持ちで一杯だった。今回はピアノの弦を使ったインスタレーションを作り、それを使ったワークショップを行う予定だったし、それがプロジェクトにおけるひとつのコアでもあったからだ。その日は会場でインスタレーションの制作を少し行い、帰途に着いた。

事件が起こったのは翌日の朝。制作の続きを行おうとアトリエへ向かうと、昨日途中まで作ったインスタレーションが破壊されていた。これに僕はカンカンになり、後から来た現地の友人に警備員に訳を聞いてもらうと、どうやら施設のトップディレクターがインスタレーションにNGを出したらしい。そこでまたもや直談判。トップディレクターはピアノを破壊されることを恐れているらしい。そこで僕はピアノの構造を示し、その行為に問題がないことを説明した。結果から言えば彼はGOサインを出してくれた。その決定打となったのは、僕は”I love piano!”の一言だった。数日後、無事インスタレーションが完成した。

ある日買い物からアトリエに戻ってくると、何やら部屋の中で音がする。こっそり覗いてみると、そのトップディレクターがインスタレーションで遊んでいた。
なるほど、「TURN」ね、と心の中でほくそ笑む。出来すぎた美談のようだが、ノンフィクションだ。

(『TURN-LA TOLA』、エクアドル・キトにて)

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