活動日誌

第九

2018.7.12

小野龍一アーティスト

朝。けたたましいサイレンの音で目が覚めた。泊まっているレジデンスには厳重な防犯装置が仕掛けられている。作動中にうっかり足を踏み入れれば瞬く間に爆音量のサイレンが作動する。
しかしこれはレジデンスの中だけに限らず、エクアドルでは外でも四六時中、防犯音が鳴り響いている。最も多いのは車のセキュリテイブザーだ。
これは僕にとって、エクアドルで最も興味深い事象のひとつだ。東京の大都市のインダストリアル・サウンドは、所謂ロウファイ(低解像度)で、多くの音は他の音と溶け合い、僕らは発信源を特定し聴取することは困難だ(ほぼ不可能に近い)。しかしエクアドルの都市では、同じくインダストリアルなサウンドでもハッキリと図として浮かび上がってくる、まるでコンサート・ホールのようなハイファイな環境だ。

「ソローは偉大な音楽家だ。それは彼が笛を吹くからではなく、シンフォニーを聴きにボストンへ行く必要がないからだ」(チャールズ・アイブズ)

思想家ヘンリー・デヴィッド・ソローは自然のものから人口的なものまで、あらゆる野外のサウンドを愛した。現在、僕もまた彼と同じくシンフォニーを聴きにわざわざボストンやロンドンへ赴く必要もないわけだ。
朝。けたたましいサイレンの音で目が覚めた。Beethoven、「第九」の第4楽章の冒頭が確かこんな感じじゃなかったかしら。

(『TURN-LA TOLA』、エクアドル・キトにて)

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