2018年10月27日(土)、東京藝術大学の美術学部中央棟2F第3講義室にて第6回TURNミーティングを開催しました。TURNミーティングは、TURNに参加するアーティストや交流先関係者、外部からのゲストをお招きし、トークやディスカッションを通じてTURNについて考えるイベントです。
第6回目となるTURNミーティングは、ボリュームたっぷりの4部構成。
第一部では都立文化施設の方々による人材育成やアクセシビリティの現状、課題を語るトーク、続く第二部では8月17日(金)〜19日(日)に開催した「TURNフェス4」を振り返るトークセッションを行いました。第三部ではアーティストの藤浩志さんを招き、「場のつくり方/ひらき方」をテーマに、場とアートの関係性を語っていただきました。そして、締めを飾る第四部はTURN 監修者である日比野克彦とTURNプロジェクトディレクター森司がこれからのTURNのビジョンを語り合う対談。
テーマもゲストも多彩で内容盛りだくさんの第6回TURNミーティングの様子をレポートします。
第一部 ダイバーシティ社会を見据えた都立文化施設の試み
登壇:稲庭彩和子(東京都美術館アート・コミュニケーション係長) 、福井千鶴(東京文化会館教育普及担当係長)
司会:森 司(TURNプロジェクトディレクター)
第一部では、都立文化施設に勤務するお二人を招き、ダイバーシティ社会を見据えた取り組みについてお話しいただきました。
最初にお話しいただいたのは、東京文化会館教育普及担当係長の福井千鶴さん。クラシックの殿堂として名高い東京文化会館ですが、「劇場をもっと幅広い層が来るひらけた場所にしたい」という使命感のもと、2013年から独自の教育プログラムを立ち上げました。この教育プログラムを通して育った人材が、東京文化会館や施設への訪問を通して、様々なワークショップを行い、音楽をより身近に、そして気軽に楽しめるように提供しています。
教育プログラムはポルトガルの音楽施設「カーサ・ダ・ムジカ」のノウハウを参考に構築されました。福井さんは実際に現地に行き、そこで行われているハイクオリティなワークショップに感銘を受けます。
「『カーサ・ダ・ムジカ』では乳幼児から大人を対象に、多彩なワークショップを行っています。その多彩さもさることながら、質の高さも圧倒的。視察に訪れた際、何度か涙が出そうになりました」(福井)。
そうした質の高いワークショップを行える人材育成により、今では子供から高齢者、そして障害者も含め幅広い層が音楽を楽しめる様々なワークショップを開催。例えば、特別支援学校にワークショップリーダーが訪れ、カラフルな衣装、道具を使って一緒に演奏をし、音楽を楽しむワークショップを行っています。
「これからの共生社会を生きていくには、性別、国籍、年齢、障害、それぞれを個性だと思うことが大切です。そうした個性たちが、音楽を通して、何かを作り上げたり、楽しい時間を共にしたりして、仲良く豊かな社会を作り上げていけるようにしていきたい」(福井)
2人目にお話しいただいたのは東京都美術館アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。2012年にスタートした、東京都美術館が東京藝術大学と連携して実施している「とびらプロジェクト」の取り組みについて語っていただきました。
とびラーとは一般公募で集まったアート・コミュニケータのことで、東京都美術館の様々なプログラムの実施をサポートしています。また、そこにある文化資源を活かしながら、人と作品、人と人、人と場所をつなぐ活動を展開しています。
とびラーが関わるプログラムは多種多様。視覚的な障害を持った人がタブレット端末を使って観賞するプログラムや親子で東京都美術館を回るツアーなど、1年を通して実施しており、スタートしてから延べ700人以上の方が活動しています。
「『訪れた人が、新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる「創造と共生の場=アート・コミュニティ」を築き、「生きる糧としてのアート」に出会える場とする』という東京都美術館の目標を達成していきたい。多文化社会の中で、文化を認めあう社会を作るプラットフォームとしてミュージアムを機能させていきたい」
という稲庭さんの力強い言葉で、第一部は幕を閉じました。
第二部 TURNフェス4を振り返る
登壇:上原耕生(アーティスト)、渡邉慶子(袋田病院 作業療法士) 、伊勢克也(アーティスト)、山城大督(アーティスト)
司会:森 司
第二部では、8月に行われた「TURNフェス4」を振り返るトークセッションを行いました。参加アーティストである上原耕生さん、伊勢克也さん、山城大督さん、袋田病院の作業療法士渡邊慶子さんにお集まりいただき、当日の様子やプログラムの狙いなどを語っていただきました。
伊勢克也さんが実施した《共生するアトリエ》では、美術館の中でアーティストや来場者が、モデルデッサンや彫像づくりの場を楽しむ様子がみられました。かつて伊勢さんが勤める大学の学生だった、自閉症をもつ岡本智美さんが、自由に作品を作れるアトリエがほしい、という思いから生まれました。フェス当日は岡本智美さんも参加し、作品づくりに勤しみました。「アーティストが施設や作業所に入っていくのではなく、向こう側の人がアート側に入ってきた。アートにはそういう人たちを受け入れる特性がある」(伊勢)。
山城大督さんのプログラム《NENNE|ねんね》は、4㎡のスペース内で、自由な時間を過ごせる場。「息子が過去のTURNフェスに来たとき、大きな影響を受けた。そうした経験を他の子供たちにもしてもらうスペースとして構想した」と山城さん。「開催日のギリギリまで迷いながら、考えていました」と制作の裏話も語られました。
アーティストの上原耕生さんとアートフェスタ(※)を2015年から行っている精神科病院である袋田病院も、TURNフェス4に参加。袋田病院で制作された作品展示のほか、病院のアトリエで普段行っているワークショップがフェス会場でも展開されました。袋田病院でのアートフェスタについて、作業療法士の渡邊慶子さんは「年々、質が上がってきているのか、スタッフの対応が良かったと言ってもらえるようになった。実はそれは、アートが関わっているんじゃないかと思っている。アートを通して、イベント自体の質を高めていきたいという意識がスタッフの間で高まっているんじゃないか」と語ります。「フェスタでは先生も、作業療法士も、患者もみんな作品を作る。先生よりも患者の作品が評価されるときもあって、普段の関係性が逆転する。そういう面白さがある」と、精神科病院がアートフェスタを行う価値を語る上原さん。
※アートフェスタ…2011年にアーティストの上原耕生さんを造形スタッフとして迎えたのち、2013年より毎年秋の恒例イベントとして開催。袋田病院の閉鎖的な病棟や、外来の待合室や診療室を、あえて展示空間として地域に開いてきました。利用者が日々描き貯め、造り貯めた作品展示を始め、ワークショップや作品販売等を行い、来場者と交流することで、立場を超えてアートについて、そして精神科医療について語り合う場となっています。
最後に伊勢さんから「私自身が自閉症の学生を学校で教えた経験や袋田病院の取り組みの手法を共有できるといいんじゃないか」と提言をいただき、TURNフェス4の振り返りは終わりました。
スペシャル企画 藤浩志による「がまくんとカエルくんの紙芝居」
第二部と第三部の間にはアーティスト藤浩志さんによるスペシャル企画「がまくんとカエルくんの紙芝居」が行われました。これは、実際にある絵本を紙芝居にし、藤さんが大声を張り上げながら読み上げる、というもの。突然、ものすごい形相で紙芝居を読み上げる藤さんに客席からは大きな歓声が上がります。その後も終始、迫力満点の朗読で会場を盛り上げた藤さん。滅多に見られない、圧巻のパフォーマンスで会場は高揚感に包まれました。
第三部 場のつくりかた/ひらきかた
登壇:藤浩志(アーティスト)
聞き手:森 司
会場を盛り上げていただいた藤さんはそのまま、森司との対談に参加。先ほどの紙芝居の意味について、藤さんのトークが展開されます。
「紙芝居の『おてがみ(※)』から見えるのは、『態度の問題』と、創作においての『フィクションとノンフィクションの問題』です。特に美術大学の学生は“何かをつくらなきゃいけない”という束縛に加えて、“過去の作品を参考にしながら上質なものをつくらなきゃいけない”という切迫感がある。この『おてがみ』を読み解くと、そういう考えを1回外して、誰とつくるのか、どうつくるかといった態度そのものや、色々な場所や現場でつくり、次の連鎖を促すことが、実はすごく重要であると感じます。
それから『手紙が届かない』ことに対しての違和感を言葉にすることが表現のきっかけになっているということも重要です。自分の心の中にある違和感みたいなものを、何でもいいので言葉にする、形にする。それが表現のすごく重要なきっかけなんじゃないかと思います」(藤)
一本の紙芝居から、アートへの向き合い方をわかりやすく紐解く藤さんの話に、会場の多くの人が深くうなずいていました。
続いて、藤さんが行ってきた場づくりをテーマにした活動について、議論が行われます。藤さんが仙台市で行っている「ワケあり雑がみ部」は、不用品として捨てられる包装紙や紙袋などの「雑がみ」をテーマとした参加型の部活動。その場に集まった雑がみを使い、各々が好き勝手に作品を作っていきます。「何を作っても許されている場所です。そこには指導者がいない。それが重要で、みんなが勝手に作っている。あともう一つ重要なのは、一生懸命作っている人」と、場づくりのエッセンスを語っていただきました。
※「おてがみ」…アーノルド・ノーベル作の絵本『がまくんとかえるくんシリーズ』の一編。おてがみを一度ももらったことがないというがまくんのために、かえるくんがおてがみを書く。そしてかえるくんは、わざわざカタツムリに配達をお願いする、というあらすじ。
第四部 TURNの展望〜交流プログラム、TURN LANDが目指すこと〜
登壇:日比野克彦(TURN 監修者)、森 司
最後となる第四部では、日比野克彦と森司がこれからのTURNを語り合いました。話の中で、今後のTURN LANDについて聞かれた日比野は「すでにTURN LAND的なところはたくさんあるなかで、TURNという概念を使うことで情報を共有しやすいとか、課題解決のきっかけが見つかりやすいとか、そういう仕掛けをしていきたい」と大きなビジョンを語ります。それを受けた森は「特に、東京文化会館の取り組みで『人材育成』の重要性を改めて認識した。育成講座を受けた人、TURNを経験した人の多さによってもプロジェクトは変わっていく。2020年に向けて、これまでTURNに携わった人のネットワークの輪郭がもう少し見えてくるといい」とプロジェクトにおける人やネットワークの重要性を語りました。
3時間にわたって行われた第6回TURNミーティング。これからのTURNのあり方や展望、期待など、新たな動きを予感させる話が随所に散りばめられていました。
ご参加いただいたゲストの皆さま、ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。
執筆:長瀬光弘(編集ディレクター/ライター)
写真:大野隆介