[板橋区立小茂根福祉園とTURN]風が吹き 、夢はおどる ー Episode7:育み始めた夢

取材・文:長瀬光弘

2015年から始まった小茂根福祉園とTURNは、紆余曲折を経ながら、4年間という、決して短くない時間をともにしていました。アーティスト、メンバー、職員、それぞれの関係性も時間とともに変わり、同時にTURNというものの受け止め方も、また、確実に変わっていきました。それぞれにとっての“TURN”とはなんだったのか。継続して関わってきた関係者一人ひとりが、活動や経験を振り返り語りました。
<「TURN JOURNAL 2018(2019年3月発行)」より>

桜の樹の下に設置した舞台の上でお花見をするメンバーと大西、宮田 写真:野口翔平

それぞれの“TURN”とは…。

「最初はね、全然わからなかったんだけど。アルミホイルに巻かれたり、『みーらいらい』を持って歩いたりしているうちに、何となくTURNを感じられるようになってきたかな、って思ってます。『全部を理解しなきゃいけない』『芸術とはこういうものだ』という先入観がなくなっていった。TURNに参加すると、不思議な心地よさが残るんですよね。身近な人にも、その感覚を味わってほしい。でも言葉で説明するものでもないから、今私が園長を務める施設にもアーティストに来てもらおうかなぁなんて考えているんです」(工藤前園長)

「いつもスクエアの枠に当てはめて物事を考えていたんですけど、TURNではそれをやめました。我々職員は、例えば『一人で軽作業ができるようになる』『買い物ができるようになる』っていうわかりやすい枠の中で利用者さんをサポートすることが多いです。TURN には、それがない。ありのままでよし、どんな表現でもよし、そういう考え方がすごく貴重だと思ったんです。私の立場だと、制度とか規程の縛りの中で、うまく施設運営をしなきゃという意識になりがちです。それを全部取っ払って、『そのままでよし』という時間を与えてくれるTURN はすごくいいなって思う。私やアート活動推進委員のメンバーだけじゃなくて、他の職員にももっとこういう体験をしてもらえるように、これからもフォローしていきたいです」(水谷園長)

「手の会話」を行う、利用者と小茂根福祉園の職員 写真:冨田了平

「先ほど、利用者さんの経験値について話しましたけど、ここ数年である利用者さんが刺繍を覚えたんですね。TURN が、直接的に影響しているのかわからないですけど、利用者さんにとって『新しいことに取り組む』ハードルが、少しずつ下がってきているように感じます。フェスなどでは、パフォーマーとしての可能性も見せていますしね(笑)。それから、利用者さんだけでなく、職員も経験値を重ねているはずです。“直接的な支援”だけでなく、利用者さんを温かく見守る人が一人でも増える“間接的な支援”の醸成も職員にとっては大切。でも、なかなかそうした機会がないのも現状です。TURNなら、それができる。若い職員や他の施設にもこうした機会を広げられるように、まずはこの小茂根福祉園での活動をしっかりと続けられるようにしたいですね」(高田)

この、“間接的な支援”については、水谷園長も言及している。

「地域にひらくと言っても、いろいろな意味があると思います。小茂根福祉園としての“ひらく”というのは、例えば利用者さんが一人で外に出てしまった時に、施設に電話をかけてくれる地域の人、見守ってくれる人が増える、ということ。その為には、利用者さんに対する理解を広める必要もありますし、地域の人とのコミュニケーションも重要になってきます。その一つのきっかけにTURN がなればいいと思っています」(水谷園長)

桜の木の下で「手の会話」をする利用者と宮田 (右) 写真:野口翔平

「だじゃれが好きなんです、ぼく。だじゃれは、何かと何かが結びついてできるもの。そういう構造を生み出すのが好き、と言ってもいい。例えば『きらりグッと』と『ヒヤリハット』という言葉がだじゃれによって出会ってしまったら、ぼくの中ではもうそれは切り離すことができない。AとBという言葉のあいだをイメージが行き交って、お互いに連想し合うことで、イメージが増幅していく。『「お」ダンス』にもその可能性を感じているんです。誰かと誰かが出会って、向き合って、何かが生まれる。構造は一度できあがってしまえば、100年後にも残ります。そうしたものを生み出せるように、今メンバーや職員の皆さんと一緒に歩んでいるのかもしれません」(宮田)

『「お」ダンス』は、小茂根福祉園の屋上でも行われた

「TURNは、まず何よりもメンバーと職員が新たな関係を築く場であってほしいと思っています。アーティストみたいな立場の人や園関係者以外の人が参加することで、職員とメンバーの普段の関係性がぶれた時に、相手や自分の新たな一面に気づく。他者が介入することで慣れ親しんだ関係がちょっと回転して、別の側面が見えてくるイメージ。小茂根福祉園の職員の皆さんは、利用者さんのいろんな表情を見つけて即興演劇のように反応する達人だと思うんです」(大西)

大西は、一呼吸おいて、話を続ける。

「小茂根福祉園のみんなと興行を開催したいんです(笑)。『「お」ダンス』はそのための稽古でもある。初めての人は、『「お」ダンス』をどうやって見ればいいのか、わからないと思うんですよね。二人が向き合って、手で会話している。それを取り囲む人たちが、時折「お」という掛け声をかける。それを、観客が取り囲んで見ている。観客はどうしたらいいかわからないでしょうね。しかも、ダンスをしているのは、常に想像を超えてくる小茂根福祉園のメンバーたちですから。『自分も声をかければいいの?』『ただ見てればいいの?』『次はどんな動きが起きるの?』いろんな感情が渦巻くはずです。800人の劇場で、『「お」ダンス』をやりきって、観客がみんな戸惑い、衝撃を受け、立てなくなっちゃう。そんな光景が生まれたらいいなと思いますね」(大西)

人が生まれつき持っている力を、TURNは信じている。アートはその力を引き出すことができる、と信じている。
小茂根福祉園を舞台に、アーティスト、メンバー、職員はアートを通じた交流を続け、いつしかともに夢を育み始めた。これから先、どうなっていくのかは誰にもわからない。しかし、想像をいつも超えてくるメンバーのことだ。きっと、誰も見たことのない光景に出会わせてくれるだろう。

TURNフェス3での小茂根福祉園のメンバーと大西 写真:伊藤友二

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長瀬光弘
ディレクター、エディター。1987年、岐阜県生まれ。明治大学卒業後、印刷会社営業職を経て、制作会社でディレクター、エディター職を経験。2018年よりフリーランスに。Webメディアのディレクションや情報誌、ブランディングツール制作など幅広く活動中。現在、子育てのために岐阜と東京の2拠点生活。

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