[板橋区立小茂根福祉園とTURN]風が吹き 、夢はおどる ー Episode6:持っている力

取材・文:長瀬光弘

TURNフェス4で大西健太郎さんは、新潟県十日町市莇平(あざみひら)に伝わる「シッチョイサ」という盆踊りをベースにした交流を行います。『シッチョイサ』は、日常の喜怒哀楽を即興で歌い合うもので「その場そのときにしか生まれない踊りの風景が見えるのでは」と大西さんは考えていたそうです。そして、「シッチョイサ」終了後、大西さんは『予想していたことがおこがましく思えるくらい、一人ひとりが自分の身体と肉声で歌い、その存在感が強烈』だったと振り返ります。小茂根福祉園ならではのリズムとキャラクターが凝縮されたTURNフェス4での「シッチョイサ」を紹介します。
<「TURN JOURNAL 2018(2019年3月発行)」より>

TURNフェス4 で「シッチョイサ」パフォーマンス中の一枚。メンバーは、思い思いの掛け声を放つ。 大西健太郎は日本神話に登場するヤタガラスに扮して会場を盛り上げた。 写真:冨田了平

職員の経験値

2018年5月末、大西はエクアドルにいた。TURNは海外からの招聘や現地のアートプログラムと連携する形で、2016 年から海外展開も行っている。2018年は、エクアドルのラ・トラ地域にあるエクアドル中央大学と連携をした「TURN- LA TOLA」の開催が決まり、大西がアーティストとして参加することになったのだ。大西はラ・トラに赴き、新潟県十日町市莇あざみひら平に伝わる「シッチョイサ」という盆踊りをベースに現地の人と交流するプログラムを実行した。この話を聞いて、水谷園長や高田は「海外に行くようなアーティストが、小茂根福祉園に来てくれてたんだ」と喜んだ。

自身のワークショップ『微分帳』の紹介をする宮田篤 写真:野口翔平

大西が日本を留守にしている間は宮田が小茂根福祉園に赴き、いくつかのプログラムを実行していた。小茂根福祉園の『きらりグッと』とTURN版の『きらりグッと』の違いや共通するところを職員と考えたり、その材料として先行する自身のワークショップ『微分帖』を紹介したりしている。

この時期について、宮田と高田はそれぞれこう語っている。

「小茂根福祉園で日常的に実践している『きらりグッと』とTURN 版『きらりグッと』の違いや共通点を一緒に考えることで、TURN が目指しているアートがなんなのか、少し掴めるのではないか、という狙いがありました。それから、『「お」ダンス』でやっていることと『きらりグッと』がどのように関わり合っているのかを考えたいという思いもありました」(宮田)

「宮田さんのワークショップの中で出てきた言葉がとてもわかりやすくて、普段の現場や支援にも重ねられるような内容だったんです。他の職員が『うん、うん』と頷いて聞いていたのがとても印象的でした。宮田さんのわかりやすさもありますし、職員側もTURNや大西さんと出会うことで、経験値やイメージする力が上がっていたんだと思います。非日常の重なりから見えてくるもの、ハインリッヒの法則、宮田さんが考える『きらりグッと』などの話が展開されたことをよく覚えています」(高田)

大西健太郎が海外に行っている間、宮田篤と職員は“アート”と改めて向き合う時間を過ごした 写真:野口翔平

ジェットコースターのような体験

7月、エクアドルから大西が帰ってきた。小茂根福祉園で、エクアドルでの活動の報告会が行われる。職員やメンバーは、エクアドルがどこなのか、事前に地図で調べたりしていた。「海外から、大西さんが帰ってくる」。みんな、どこかそわそわしていた。
報告会では、現地の人と「シッチョイサ」を踊った体験談が大西から語られる。みんな、興味深そうにその話を聞いている。一通り話し終えた大西は、一ヶ月後に開催されるフェス4について話をし始めた。

「来月のフェス4では、みんなと会場で『シッチョイサ』を踊りたいと思います」

なぜ、フェス4で、小茂根福祉園のメンバーと「シッチョイサ」を踊ろうと思ったのか。そこには、来場者に「旅」をしてもらいたい、という大西の狙いがあった。

「『シッチョイサ』の特徴の一つに、日常の喜怒哀楽を即興で歌い合うという構造があります。その場そのときにしか生まれない踊りの風景が『シッチョイサ』の最大の醍醐味だと思い、小茂根福祉園のエッセンスとかけ合わせたいと考えました。普段の小茂根福祉園には、仕事をしながら、食事をしながら、週に一度のカフェでよそからのお客さんを迎えながら、さまざまな場面で、どこからともなく会話が飛び交っている風景があります。そうした、小茂根福祉園ならではのリズムとキャラクターが凝縮された一瞬一瞬に、よそから来た人は驚かされます。そんなメンバーが『シッチョイサ』を歌うことで、来場者にちょっぴり『旅』をしてもらいたかった。と同時に、来場者の反応を受けたメンバーは、おそらくその反応でさらにかけ合っていくことを面白がってくれるだろうと思っていました。双方からの歌とダンスのかけ合いによって、魅力的な風景が予感できたのです」(大西)

実際に、大西が「シッチョイサ」をメンバーの前で踊ってみると、ほとんどの人が見よう見まねながら踊り始めた『「お」ダンス』と違い、ある程度の型があるためわかりやすいのだろう。大西が帰国してきていたわずか一ヶ月後に控えたフェス4。急ピッチで準備は進んでいくが、経験値が積まれている現場には焦りや不安は感じられなかった。

『シッチョイサ』の円がTURNフェス4の会場に広がっていく 写真:冨田了平

フェス4当日。ステージエリアで大西と小茂根福祉園の面々による「シッチョサ」が披露された。突然沸き起こる盆踊りの掛け声に興味を抱いた観客が周囲を取り巻き、大きな円が自然とできあがる。その場にいる人をどんどん巻き込みながら、盆踊りの輪はどんどん大きくなっていく。途中、メンバーがマイクの前に立ち、各々自分の好きなものや伝えたいことを「シッチョイサ」の節に合わせて歌い、会場を盛り上げる場面もあった。皆、恥ずかしがりながらも、楽しそうに、そしてどこか誇らしげにマイクに向かっていた。「シッチョイサ」を終えた大西はこう振り返る。

シッチョイサの節に合わせて歌う小茂根福祉園のメンバー 写真:冨田了平

「予想を遥かに越えるパフォーマンスが繰り広げられました。むしろ予想していたことがおこがましく思えるくらい、一人ひとりが自分の身体と肉声で歌い、その存在感が強烈に場をかき混ぜていました。例えば、あるメンバーが『牛丼、焼きそば、カレーライス…』と歌い出すと、来場者は一瞬ポカンとあっけにとられたような表情をして、その直後どよめきみたいな笑いに転じました。誰も想像しなかった歌だった。好きなものを並べただけなのか、どうなのか。それにしては、こぶしがきいていて険しい表情で歌うものだから、その場にいた人は皆、笑いともシリアスとも怒りとも、どんな感情の形容詞にもつかない心の崖っぷちみたいなところに立たされる。『どうなる、どうなっちゃう?』…。それで、歌いきってみせ、どっと笑いになって引っ張り上げられるんです。ジェットコースターみたいな体験でしたね(笑)」

TURNを始めたばかりの頃からは、想像もできないような光景がそこにはあった。小茂根福祉園のメンバーが持っている力が湧き出るかのように、「シッチョイサぁ!」という掛け声が、会場内に大きく響き渡った。

***

■本エピソードを収録した「TURN JOURNAL 2018」全文はこちらからご覧いただけます。

■その他のコラムはこちらからご覧いただけます。