活動日誌

動画とはがきによる遠隔交流の試行錯誤日記

2022.1.6

飯塚貴士アーティスト

交流先│

  • 大田区立障がい者総合サポートセンター

2020/8/26
新型コロナウイルスの影響で「たまりば」(大田区立障がい者総合サポートセンター)が休止になってしまったことによって交流もストップしてしまいました。
何かしら交流を続けられないかという思いで、往復はがきにより遠隔で交流を行うための配信動画「まじむらにゃんべえの世界」を始めることにしました。
手探りなのでたまりばのみなさんが楽しんでくれるか不安です。
こちらからの質問を載せたはがきは投函済み。果たして返事はくるのか?

「たまりば」のメンバーが飯塚に手紙を送り、飯塚が制作したバーチャル世界に住むキャラクター「まじむらにゃんべえ」が、動画で返事をしました。

2020/9/18
「まじむらにゃんべえの世界」紹介動画とはがきが届かず交流ができない際に作成した短いおやすみ動画数本の配信を経て、やっと初めての交流動画をたまりばのメンバーに向けて配信することができました。
デジタルな手法で、手書きのはがきを紹介するという新旧ないまぜのやり方の面白さがたまりばのみなさんに伝わることを願いつつ…。
また、たまりばのみなさんの個人情報を守るために限定公開のQRコードを読み込んで動画を見にいってもらう方法をとっているので、その技術的なハードルについてもこれから明らかになっていくのかなと思っています。

2020/10/23
緊急事態宣言中ということもあり、人と会えない時間が増えて寂しいという意見が多く寄せられました。仕事も在宅になったりして、一人の時間がさらに増えていることも寂しさを募らせる原因になっていると思う。たまりばのワイワイした空気感に変わるものはできないけれど、動画を見ている時間だけでも交流しているように感じられる動画にもっと寄せていけないものか、話口調や言葉選びのトーンを少しだけ調整。わざとらしくなりすぎない程度にしてみようと思います…

2020/11/6
2020年の交流が区切りということで一旦のお別れの動画配信。
一定数見てくださっている方はいるものの、はがきのやりとりが一往復に限られていたため時間が経つにつれて動画の再生数が落ちていきました。はがきを送る回数を増やして、会話の往復回数を増やすことができるかどうか相談して、2021年の交流にむけて準備をせねば。やる気だけはいっぱい。から回りしないように注意します。

2021/2/19
2021年最初の「まじむらにゃんべえの世界」の配信。
パワーアップポイントとしてはがきを送る回数を増やすことができました。スタッフのみなさん、たまりば関係各所のご協力に感謝です…!
内容は変わらず緩めに会話しておりますが、たまに受け止めきれないほどシリアスな質問も来たり。詳しい事情を聞きすぎることも個人情報の観点から難しいので、精一杯、知り得た情報から、言えることを丁寧にお返ししています。
謎の猫、にゃんべえに胸のうちを明かしてもらえる嬉しさと、責任を感じています。

2021/3/19
TURNフェス6の前に一旦区切りの「まじむらにゃんべえの世界」配信。
前よりも活発にはがきが届くようになり嬉しい限りです。みなさんのご意見からは、自粛生活をそれぞれの楽しみや乗り切り方を会得している様子が感じられました。ただ、催し事や人と会うことはまだ活発に行える状態でない寂しさだけは、どうにもならないことだなとも…。
TURNフェス6にはオンラインプログラムに参加予定で、たまりばのみなさんだけではなく一般の方にも動画を配信する予定なので、いつもより交流感がアップすると嬉しいな。

2021/7/9
TURNフェス一般視聴者向け「まじむらにゃんべえの世界」では、友人であり尊敬している映画監督の内田清輝さんに字幕テロップの演出を担当してもらいました。世間一般のイメージの字幕から大きく逸脱する自由な文字の表現で、動画のパワーが急に大きくなって興奮しています。嬉しい!

TURNフェス6:オンラインプログラムで公開した映像の様子

2021/7/30
フェス版の動画アップを始めた矢先、飯塚家全員が例の流行り病に罹患してしまい、早速交流がお休みになってしまいました。父と自分が症状重く同じ病院の相部屋で入院。高熱と呼吸困難、点滴の副作用で吐き気が止まらない中、酸素吸入器を装着し血中酸素濃度維持のために横になれないでいる父を見ながらの入院は、(二度としたくないですが)不思議な体験でした。
うなされている最中に見た、6つ頭のシャチの神様は本当にいるのかまぼろしか。
なんとか危機は脱して自宅療養にもどったので、気を取り直して動画作成を続けます。

2021/8/27
楽しかったTURNフェス版の動画も一区切りとなりました。一般視聴者からはたまりばのみなさんとは観点が違う回答をもらえて新鮮でした。にゃんべえ本人への質問も増えてきたのは嬉しかったけれど、僕自身ではない架空の人物を立てたことが正解だったか改めて考えたり…。
理由は大きく2つあり、一つは生の人間の動画にしてしまうと、動的なコミュニケーションを欲する気持ちを刺激してしまうのではないかと考えた為。もう一つは僕自身が架空の人物になりきることで話せるようになる交流のトーンがある気がした為です。
もしかしたら逆にまどろっこしくなってしまっているのではないかという懸念はありつつも、ここまできたのでやれることを頑張ってみて、振り返って分析しようと思います。

2021/9/3
一般視聴者にも配信を行なったTURNフェス版からたまりばメンバーに限定した動画配信での交流に戻りました。
内田さんの文字がないのが寂しく感じる…。見ている方も物足りなくなってしまってたら申し訳ないなあなどと、してもしょうがない心配をしました。

2021/9/10
動画配信の回数・スケジュールを当初の計画とまちがって一回多く配信してしまい、今度はスタッフのみなさんに申し訳ないことをしてしまいました。
自宅療養が終わったが本調子ではないと強く実感するけれど、それを言ったらみなさん何も言えなくなってしまうので心の中で自戒。激しい運動はNGだけど体力は戻さなくちゃならない場合、どうしたらいいんでしょうか。
ワクチン摂取が済んで、落ち着いてきたらたまりば再開の可能性もあるという話を聞いて、すこし心が軽くなる。早く再開できるといいな。

2021/10/29
残すところ数回となった動画配信。
新しい質問と共に配信前のお知らせを記載し、動画の更新直前にたまりばのみなさんのもとにはがきが届くやり方に変更しました。
質問と回答のキャッチボールの往復回数と発展が見込めて楽しみですが、はがきの発送回数が増えるため各所への負担が非常に心配です。

2021/11/26
ラスト2回に迫った動画配信。
はがきの送付回数を増やしたことがやはり各所への負担になってしまったみたいで、たまりばのみなさにに意図したタイミングに送ることができず…。各所みなさんに色々とご迷惑をおかけして申し訳ない気持ちでいっぱいですが直接お伝えすることもできず…遠隔の難しさはここにきても付き纏う。
遠隔自体が難しいというか、根付いているいつものやり方との齟齬が生まれやすいという感じでしょうか。それだけ直接的なやり方で色々な場所が成り立っているということを実感しています。
それは人がコミュニケーションが必要な生き物だからなのか、慣習や文脈からそうなっているのか、どっちも?
限定的ではあるものの「たまりば再開」との連絡あり。皆、嬉しいだろうな。
外部の人はまだ参加できないそうなので僕はお預け。しょうがないですが、ひとまず、めでたい!

2021/12/6
しばらくぶりの訪問。大田区立障がい者総合サポートセンターの就労支援部門のみなさんのお昼休みのお時間をお借りしてにゃんべえの紹介とはがきくばり。
「Vtuberだ!」「これは猫ですか?」など生の反応が返ってくることが嬉しい。
Vtuberという存在もすっかり定着してきているみたいで、そういえばにゃんべえも言われればそうか、とはっとしました。
たまりばの再開1回目の様子もお聞きできて嬉しい。いつものワイワイごはんを食べながらの交流はまだ控えて、適切な距離を保ってみんなで何かのビデオを見たらしい。楽しそう。次回最後の配信はクリスマスイヴ。

2021/12/24
一応、最終回となる「まじむらにゃんべえの世界」クリスマススペシャル配信。
初期の動画で登場させたものの、後半居なくなったキャラクターを久しぶりに出したり、僕が普段している一人芝居での複数キャラの掛け合いも少しだけ盛り込み、背景に雪も降らせてスペシャル感を出す。
そんな事をしていたら無性に最終回ということが寂しくなっている自分が気恥ずかしい。たまりばの皆さんが寂しくなっているかどうかもわからないんですが…。
たまりばが再開された時の様子をはがきで教えてもらったり、最後にして少しだけ明るいニュースを届けられてよかったなあと思いました。

一年と数ヶ月にわたって行なったこの動画とはがきによる遠隔交流は、結局の所、たまりメンバーの皆さんの内、少数の方にしか届けられなかったという所感になりました。
実際どのくらい役に立ったのか定かではありませんが、わずかでも寂しさを埋められたり、暇つぶしになっていたことを願います。
遠くない未来、外部の人が「たまりば」に参加可能になったら遊びに行って、直接感想やダメ出しをもらってこようと思います。

TURNの活動に参加することができて改めて本当に良かったです。
漠然と感じていた世界の仕組みへの疑問…なぜ人を区別するのか、その線引きはどうなっていて、由来はどこからきたのか。様々な方と交流させてもらったことで、少しだけ理解が進みましたし、線引きをする理由はやはりないという思いも強くもてるようになりました。と同時に一度作られた枠と根付いてしまった意識ををなくす難しさも痛感しました。
一人ひとりが違っていることが当たり前で、それぞれに合った生活が自然に行える世界になるまでには、超えなくてはならないものがたくさんあります。それは一人の力ではどうにもならないくらい強大ですが、僕が取り組んでいる「表現」という分野から何かしらできることがあるはずなので、TURNの活動が終わった後も、考え、試行錯誤を続けていきます。本当にありがとうございました!
ここまで読んでいただきました皆様もありがとうございました!

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