活動日誌

第5回TURNミーティング レポート

2018.7.4

TURN運営スタッフ

2018年5月13日(日)、東京藝術大学美術学部中央棟1F 第1講義室にて、今年度最初のプログラムとなる第5回TURNミーティングを開催しました。TURNミーティングは、TURNに参加するアーティストや施設関係者、外部からのゲストをお招きし、トークやディスカッションを通じてTURNについて考えるイベントです。

第5回目のTURNミーティングは二部構成。第一部では日比野克彦(TURN監修者)と近藤良平さん(振付家・ダンサー・「コンドルズ」主宰)の対談、「角銅真実とオーケストラ達だ」によるライブパフォーマンス。第二部では日比野克彦、森司(TURNプロジェクトディレクター)、奥山理子(TURNコーディネーター)によるクロストークを行いました。
2018年度のTURNの幕開けにふさわしい、濃密な3時間の様子をお届けします。

第一部 近藤さんと日比野さんが「ざっくばらんにTURNを話す」

1人での作業が苦手で、結果的に巻き込み型に
振付家、ダンサーとして多方面で活躍をする近藤さんと日比野による対談「ざっくばらんにTURNを話す」からミーティングはスタート。実は、近藤さんは過去に日比野が東京藝術大学で行った集中授業にゲスト講師として参加したこともあるそう。そんな旧知の仲の2人のトークは、近藤さんが参加する東京キャラバンの話題から始まりました。

2017年10月に熊本を舞台に行われた東京キャラバンでリーディングアーティストを務めた近藤さんは、街を練り歩きながらその場にいる人が即興的に参加する巻き込み型のパフォーマンスを展開。「近藤さんは、みんなで一緒になって踊る、みたいな巻き込み型の手法が好きですよね」と日比野。それに対して近藤さんが「たまたまそうなっているんです。1人で作業するのが苦手で、結果的に巻き込む形になりますね」と返します。

続いて、近藤さんが演出・振付する障害者で編成された埼玉県障害者ダンスチーム「ハンドルズ」の話題に突入。ハンドルズは各メンバーが障害を抱えながらも、ユーモア溢れるダンスやコントなどのパフォーマンスを披露し、好評を博しています。実際の公演映像を見ながら、「どのように障害のある人とパフォーマンスを作っているのか」その秘密を探る会話が交わされます。

「ハンドルズのパフォーマンスは、最初にオーディションで踊ってもらって、とかやってるんですか?」(日比野)
「いや、すぐに何かをやってもらうんですよ。踊ってみて、とかこういう動きしてみて、とか」(近藤)
「その人の、身体的な特徴とかを見て?」(日比野)
「そうです。何かやってもらうと、周りにいる人が『わお!』と反応する。そうすると本人も気持ちよくなって、ずっとその動きをやり続けたりするんですね。そうやってそれぞれが気持ちよくなるポイントを見つけて、集めていって、全体のパフォーマンスを構成していくんです」(近藤)

「ハンドルズの活動をぜひTURNでも」という日比野の誘いから、話題はTURNへ。TURNの活動中に発せられた言葉を集めた本「TURN NOTE」を読んだという近藤さんは、プロセスを重視するTURNのスタンスに共感を得たと話します。

「我々の活動が表に出るのはステージ上でのパフォーマンスだけ。でも本当はその前に莫大な量のプロセスがある。そうした中で生まれては消える思いやアイデアが、後から振り返ると面白かったりする。このTURN NOTEを読むと『思いやアイデアが生まれては消えるというプロセス』を重ねながら、このプロジェクトが続いてきたと実感できてすごくいいですね」(近藤)

恥ずかしがり屋の部分をくすぐってでもこじ開けて、調子良さげにしちゃう
対談も中ごろ、近藤さんの海外活動の話で盛り上がる中、日比野が突然客席にいたTURN参加アーティストの大西健太郎さんをステージ上に呼びます。3人での座談会が始まると、話題は、大西さんが初めて福祉施設を訪れた際に感じたことに発展。

「最初に小茂根福祉園に行った時は、怖かったです。それは、自分もそうですし、福祉園にいる人たちもそう感じていたはず。何を考えているかわからないし、喋ったこともない。こっちが話終わったら相手が話す、というこれまで慣れきったコミュニケーションをするわけでもないですから」(大西)
「それが、訪れる回数を重ねていくうちに、近づいていった?」(日比野)
「簡単には言えないですけど、『みーらいらい』を作る作業を通して、近づいていった気がします。ハンドルズの映像や近藤さんの話を聞いていて特にそう思いました。言葉ではなく、手を動かしたりといった作業の時間によって近づいていった」(大西)
「そうだね。近藤さんは、そういう他人の気持ちいいポイントを探るのが得意ですよね」(日比野)
「そうですね。相手をその気にさせる、と言うか。一つコツがあるとすれば、恥ずかしいという気持ちを取り払ってあげることですね。誰でも、恥ずかしがり屋の部分って絶対あって。そこをなんとしてでも、くすぐってでもこじ開けて、広げていって、調子良さげにしちゃう。そういうアプローチが重要だと思います」(近藤)

TURNでの交流における重要なエッセンスにも触れた、充実の対談、座談会は予定時刻をオーバーする盛り上がりを見せました。最後に近藤さんが客席のみんなを巻き込んで、座ったままでできるダンスを披露。会場が笑顔で包まれたまま、終了しました。

「角銅真実とオーケストラ達だ」によるライブパフォーマンス

第一部と第二部の間には「角銅真実とオーケストラ達だ」によるライブパフォーマンスを行いました。このライブパフォーマンスでは、音の振動でライブを楽しもう、という試みで、会場全員に風船を配布。太鼓や重低音が鳴る楽器によって風船がビリビリと震え、聴覚以外で音楽を感じてもらうことを意図しました。

ライブは、角銅真実をはじめとするパフォーマーが客席から登場するサプライズでスタートします。マンドリンやリコーダーの音色で、会場内は明るく和やかなムードに一変。そうと思いきや、会場内をアカペラで歌いながら歩き、独特の静寂した空気を生み出すなど、さまざまな表現スタイルで観客を魅了します。最後は8個のベルを途絶えさせないように鳴らしながら、各メンバーがソロ演奏を披露するという緊張感溢れるパフォーマンスを披露。20分間とコンパクトながらも、観客に大きなインパクトを残すライブパフォーマンスとなりました。

第二部 日比野克彦、森司、奥山理子によるクロストーク

第二部では、日比野、森、奥山によるクロストークを行いました。最初に、2018年度のロゴカラーを発表され、今年度のTURNの方針が奥山より説明されました。「今年度の事業案内で『共働活動』という言葉を初めて使っています。共に働きかけ合うという、インタラクティブなイメージが強いこの言葉をキーワードにしながら、今年度の交流プログラムを考えていきたいと思っています」と奥山。

続いて、TURNの基軸となる4つのプログラムを図式化したものを紹介。「昨年、LANDという言葉が生まれ、4つのプログラムが形になってきた。そうした現状を改めて図に落とし込んだものがこれです。これがあることで、TURNがより説明しやすくなるのではないでしょうか。ただ、また来年は変わっているかもしれませんし、いい意味で変えていけるような1年にしていきたい」と森が意気込みを語りました。

そして、8月17日〜19日に開催するTURNフェス4のテーマ「日常非常日(ピッジョッピジョッピ)」が初めて発表されます。これは、日比野が考えた言葉で、自分にとっての日常は誰かにとっての非日常、という意味を一言で表したもの。果たして、今年のフェスはどのようなイベントになるでしょうか。

最後に日比野の「TURNに参加している福祉施設のスタッフが、アーティストの目線で自ら動く、という事例も出てきています。これを続けていくと、施設のスタッフの中からアーティストが生まれてくる、ということもあるんじゃないでしょうか」という、TURNの新たな展開を示唆する言葉でクロストークは締められました。

ご参加いただいたゲストの皆さま、ご来場いただいた皆さま、どうもありがとうございました。

執筆:長瀬光弘(編集ディレクター/ライター)
撮影:冨田了平

© Arts Council Tokyo