[板橋区立小茂根福祉園とTURN]風が吹き 、夢はおどる ー Episode2:“交流”の意味

取材・文:長瀬光弘

アーティストが福祉施設に赴き協働活動を重ねる「TURN交流プログラム」。ダンサーの大西健太郎さんは、小茂根福祉園に通いプログラムを模索し始めました。しかし、大西さんは小茂根福祉園を利用する利用者とのコミュニケーションに戸惑いを覚え、自分の中での『出会い』や『交流』に対する価値観が揺さぶられました。そこから生まれた『風くらげ』による交流と携わる人たちの様々な思いを紹介します。
<「TURN JOURNAL 2018(2019年3月発行)」より>

小茂根福祉園で実施された『風くらげ(影の軌跡)』の様子

「葛藤していきましょう」

2016年4月、TURNは2年目を迎えた。小茂根福祉園も継続して参加する意向を示し、次の交流プログラムをどのような形で行うか、運営チームが検討することになる。

「大西健太郎に一人で小茂根福祉園に行ってもらおう」TURNプロジェクトディレクターの森司は2 年目を迎えるにあたって、こうした考えを持っていた。今までは富塚と一緒に活動することが多かった大西だが、単独で施設と関わるいいタイミングなのではとの思いからだ。

実は大西は、前述(エピソード1)の富塚による、アルミホイルを用いたワークショップにサポート役として参加していた。大西と富塚は東京藝術大学でともに学んだ仲で、卒業後も同じ団体でアートイベントの企画や運営も行っている。高田はそのときの大西の様子を鮮明に記憶していた。
「あまり話さない人でしたね。でも、イケメンだし、スタイルもいいし、存在感はありました。言葉は発さないんですけど、楽器とかアルミをうまく使って利用者と楽しそうにしていて、なんかすごい人だな、と思って見ていたのを覚えています」(高田)

不思議とメンバーと馴染んでいたその姿を覚えていた高田。運営チームから大西がメインで交流すると聞き、「いいじゃないですか」という言葉が自然と出たという。

一方の大西は、小茂根福祉園との交流プログラムに単独で挑むことになり、緊張の日々を送っていた。富塚と訪れた際は、決まったワークショップがあり、役割もあったから、それをこなせばよかった。しかし、交流プログラムではメンバーや職員との交流を重ね、ゼロから価値や表現を見出す必要がある。恐怖心があったと、そのときの心境を素直に語る。

「正直、怖かったです。すごく、緊張していた。どう接すればいいのか、何をすればいいのか。全く想像できない。1 回は訪れていたけど、次は一人だし、無目的ですからね。初めて一人で行ったときは、周りもろくに見られないし、自分の心もうまくひらけなかったことを覚えています」(大西)

高田はそんな大西を連れて、施設を案内した。メンバー一人ひとりに「この前来ていた、アルミホイルの人ですよ」と紹介をする。覚えている人もいれば、覚えていない人もいる。まばらな反応の中、うつむき加減の大西に高田は「これから一緒に葛藤していきましょう」と声を掛けた。

空間に浸る

小茂根福祉園のメンバーと交流するアーティストの大西健太郎(左)

大西は毎週のように小茂根福祉園に訪問し、自分なりの交流プログラムを模索し始める。その中で、大西はメンバーと同じ作業をしたり、昼食をともにしたり、ただ横に座ってみたり、メンバーと多くの時間をともにした。
しかし、どうもしっくりこない。

「何度か通いながら、この空間に自分を浸す感覚で時間を過ごしていました。でも、なかなか浸かった感じがしなかった。まだ、頭が堅かったんでしょうね。接し方が、自分の範疇の中でしかできてなかったんです」(大西)

当たり前だと思っていたものが、当たり前ではない空間

小茂根福祉園のメンバーは人懐っこい傾向がある。訪れた人に対して、あたかも昔からの知り合いだったかのように話しかけてくる人もいる。同時にそれは、「コミュニケーションを重ねながら、少しずつ距離を縮めていく」という“常識的”とされる交流方法が意味をなさないことでもある。それに、大西は気づいた。「例えば、人と会ったら『こんにちは』と言いたくなりますよね。でも、小茂根のメンバーは『こんにちは』で始まる出会い方じゃないんです。視野に入った瞬間から出会っている、といいますか。自分の中にある“出会いとはこういうものだ”と思っている通りには出会わせてくれない。それが、メンバーたちの特性なんだろうし、面白さでもある。そうしたことに気づいていきました」(大西)

当たり前だと思っていたものが、当たり前ではない空間。大西は小茂根福祉園に浸るうちに「自分の中のフレームが取り払われていった感覚」を味わう。しかし、同時に「手立てがなくなった」という思いもあった。「これ以上、自分からどう働きかければいいかわからなくなった時期があったんです。ちょっと苦しかったですね、そのときは。メンバーがいろいろ話しかけてきて、それに乗るんだけど、そこから先の広がりが見えない。でも、今振り返ればそうした思いを抱けたことで、本当の意味でメンバーに出会えるチャンスが生まれました」(大西)

大西はそうした葛藤の中で、メンバーの“体の中”に強い関心を抱くようになる。話しかけてくるメンバー一人ひとりの体の中には何が渦巻いているのか。交流と言っても、言葉によるコミュニケーションが全てではないのではないか。そうした考えが頭を巡った。

「手詰まりになったとき、自分が一番素直に相手のことでノックしたいと思えたのがメンバーの“体”でした。彼、彼女らの体の中にどんな風景があるのか、見てみたい。そうした欲求が自然と沸き起こったんです」

新たな一面

メンバーの体にノックしたい。大西はその思いを『風くらげ(影の軌跡)』というアートプログラムで実現しようとした。メンバーがキラキラしたフィルムを体にまとい、暗い部屋に入り思い思いに体を動かす。その様子をフラッシュを焚いて撮影し、メンバーの体の動きを光の軌跡で表現する、というものだ。

これは実際の写真を見ていただくのが早いだろう。これこそが、大西が見てみたいと思った“体の中の風景”だった。

暗闇の中で、メンバーの体の 中の風景が光の流れとなって表現される。この写真を含め、『風くらげ』の様子を収めたいくつかの写真はフェス2 の会場でも展示された
『風くらげ』撮影中のメンバーたち。フィルムの巻き方も人それぞれなことがわかる 写真:野口翔平

「メンバーの体の反応や、歩いたり走ったりする気配。そうしたものをとおして、みんなと出会ってみたかったんです。暗い部屋という緊張感がある空間に入って、一緒に体を動かして掛け合いをする。素直にその動きに関心を注げたし、相手も乗ってきてくれていると感じた。これで間違ってなかった、という手応えはありました」

一つ気になるのは、この説明が難しいプログラムをどのように施設で実行したのかということだ。メンバーは普段、決められたスケジュールに沿って作業をしているから、時間の確保も必要だ。このあたりの実務的なサポートについて、高田が詳しく語ってくれた。「説明を聞いても、いまいちよくわからなかったんです。だから、まず実物を持ってきてもらって、職員に体験させてもらえないか、大西さんに相談してみたんです。大西さんも協力してくれて、すぐにキラキラしたフィルムの実物を持ってきてくれて、実際に私と何人かの職員で『風くらげ』をやってみたんです」(高田)

工藤前園長は、この事前体験を「研修」と表現した。「研修したんですよね、1階で。それで、職員は何をするのかは理解できた。どういう意味があるのかまでは分かってなかったと思うんですけどね(笑)。『当日、大西さんとカメラマンさんが来て、暗い部屋でこれこれこういうことをします』。それぐらいの概要がわかっていれば、我々も準備ができるし、どう利用者をサポートすればいいかもイメージできる。そうやって実行に移していきました」(工藤前園長)

実際に職員が体験することで、メンバーに身をもって説明できる。また、言葉だけでなく、実際のアイテムを見せることで、メンバー側にもイメージを持ってもらうようにする。参加する、しないの承諾は、高田がメンバー一人ひとりに行った。「アイテムを見せながら、一人ひとりに参加の意思を聞いていきました。就労継続支援B型サービスの利用者さんの中には、作業を優先する人もいますし、利用者さんにも選ぶ権利は当然あります。生活介護サービスの利用者さんなど意思を示すことが難しい人は、実際に少しやってもらって表情を見ながら、続けるかどうか判断しました」

きらきらしたフィルムを動かしながら撮影を行った 撮影:野口翔平 

高田は『風くらげ』をとおして、メンバーの新たな一面を見ることができた。10年以上、施設で働く中で、初めて見るような表情を浮かべるメンバーもいたという。「みんな、あんなにはしゃぐんだっていうのは驚きでした。キラキラしたフィルムを身につけるだけで、違う自分になれる感覚。それが、利用者のみんなも同じように感じるんだな、と新鮮な発見がありました」(高田)

TURNフェス2の会場に展示された『風くらげ』 写真:冨田了平

TURN の活動のベースとなっている交流プログラム。この“交流”という言葉にはさまざまな関係性が含まれている。施設、コミュニティのメンバーとアーティストの交流はもちろん、職員とアーティスト、職員とメンバー。あらゆる関係者が“アート”をとおして交流を重ねていく。『風くらげ』でも、アーティストだけでなく、職員もまたメンバーとの新たな交流を経験することになった。

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